百万回の祈り 星の猫
それは…まだ人と人が同じ言葉を持たなかった頃の事…
その猫が、どこからともなくやって来ました。

長い尻尾をピ~ンと立て、時にはゆらゆらと優雅に揺らしながら
猫は人々の間を歩きます。
不思議なことに、その猫が歩くと、その回りに居た人はみんな何だか安心した顔になりました。
「大丈夫だよ。あっちの人は怖くない人」
「心配しないで。あっちの人も仲良くしたいって」
猫は語りかけます。
直接、人の心の中に…
そう、この不思議な猫は人の心が解る、人の心を伝えられる、世界でたった一匹の猫だったのです。
人々は、その猫によって隣の人、そのまた隣の人と仲良くなっていきました。
そして、それを運んでくれた猫を、それはそれは大切に大切に暮らし始めたのです。

やがて時が過ぎ…
人々は、猫を介さなくてもいい、同じ言葉を使い始めます。
人は、他の人と言葉で話し、どんどん沢山の人が集まりだしました。
人は考え出します…「あの猫は、俺達の心を読む」「きっと今俺が思った悪い事も読まれてる」
そんな風に考える人達によって,猫は追い立てられるようになってしまいました。
何にも悪い事なんかしていないのに…
誰の悪口も言ってはいないのに…

「あの猫は気持ちが悪い!」
「あの猫は悪魔だ!」
あんなに仲良く暮らしていたのに。
あんなに優しく暮らしていたのに。
猫は石を投げられ、水をかけられ、その場所を追われてしまいました。

それから…長い長い年月が過ぎました…
猫は今はもう、人の心に語りかけるのをやめています。
それをすると、人は最初驚き、次に喜び…でも結局最後には利用しようとしたり、怖がったり、気味が悪いと言うのです。
何人もの人に出会いました…
今度こそは…と思いました。
でも…猫が心から安心できる場所は、何処にも無かったのです。
そんなある日、今にも雪がチラチラと舞ってきそうな寒い夜…
猫は、その日の寝場所を求めて、町外れの大きな木の根元に丸まっていました。
そこに通りかかったのは、若い二人。
二人のうちの女の人が、猫に声をかけます。
「猫ちゃん、こんな寒い所では眠れないでしょ?」
もう一人の男の人も声を掛けます。
「何もないけど、ここよりは少し温かいよ。家へこないか?」

猫は二人を見上げながら思いました。
「どうせ、この人達も同じさ」
「でも、こう寒くっちゃ流石に辛い」
「今夜は、家で寝させてもらおう」
そうして猫は、この若い二人の後をトコトコと歩きついて行ったのです。
猫と二人が帰りついた場所は、こじんまりとした小さな家。
決して裕福ではない…でも、どこか温かい、そんなお家。
湯気の立つ、ホカホカスープ。
きっと自分達の分を分けてくれたのであろう、ほぐしたお魚。
猫は、自分の為に用意された暖炉の前で、そんな温かい…本当に久しぶりの食事を食べました。
「。。。悪くないな。。。」
暖炉の火で温まった体を「うぅ~~ん」と伸ばして、猫はそのままぐっすりと眠ったのでした。

その日から、猫はその家で暮らし始めます。
最初のうちは、警戒していた猫も、二人のいつも変わらない優しい笑顔に、徐々に心を開いていきました。
春が来て…夏が訪れて…
秋の枯葉がカサコソと音を立てる季節になりました。
やがて、また冷たい冬がやってくる頃…
長い間待ちわびていた、赤ちゃんがその家に誕生しました。
もう、二人は大喜び!
生まれて来たのは、女の人と同じ、輝くような金色の髪をした可愛い可愛い女の子。
若い二人はパパとママになったのです。
パパとママは、猫に赤ちゃんを見せながら言いました。

「新しい家族が増えたの。猫さん、どうぞこの子をよろしくね」と。
猫は、本当は心配していたのです。
赤ちゃんが生まれたら、自分は居場所がなくなるのではないかと…
また、あの辛い苦しい一人っきりの旅に出なければいけないのかと…
何百年かぶりに、猫は人の心を読んでみました。
そうしないではいられないほど不安だったのです。
そうすると…
なんと、パパとママからはお日様の光のような温かい思いが流れ込んできたのです。
本当に、猫を愛してくれ、一緒に居たいと願ってくれている気持ち。。。
「うみゃぁ~~ん♪」
猫は心から嬉しい声で鳴きました。
自慢の尻尾をピ~ンと立てて、女の子の眠るベッドの回りをクルクルと歩き…

やがて、スヤスヤと寝息を立てる女の子の横にくるりと丸まりました。
それはまるで…「この子は守るよ」と言っているかのように。
それからと言うもの、猫は常に女の子の側を離れませんでした。

女の子が泣き出せば、その柔らかい体を擦り付けて「大丈夫だよ」とあやし…

その自慢の尻尾を揺らして、女の子を遊ばせました。

食べる時も、寝るときも、遊んでいる時だって、猫は何時も何時も一緒です。
そんな女の子と猫の姿を、パパとママは本当に幸せそうに見ています。
ずっとずっと、こんな日が続けばいいのに…と。
何度目かの冬が来た頃、街には恐ろしい病気が流行り出しました。
何人もの人が、病気に負けて死んでいきました…
猫は何時もにも増して、女の子の側から離れません。
どうしてもどうしても女の子を守りたかったのです。
それなのに…
とうとう恐ろしい病魔は、女の子の家にもやってきてしまったのです。
しかも。。。。それは猫が何よりも大切に思う、あの女の子に…

パパもママも、付きっ切りで看病しました。
勿論、猫だって一時も側を離れたりはしません。
でも…
女の子は、どんどん弱っていくのです…
ご飯も食べられなくなりました。
お水さえ喉を通らなくなりました。
それでも、猫が心配そうに「んにゃぁ…」と鳴くと、すっかり細くなってしまった可愛い手で、女の子は猫を撫でるのです。
パパとママは毎晩毎晩祈っていました。
その祈りは、猫が心を読むまでもなく、伝わってくるほど強く、悲しく、切ない祈りなのです。
「代われるのなら、代わりたい!」
その時です。
猫はずっとずっと昔に聞いた話を思い出しました。
それは…
たった一度だけ、自分の一番大切なものと引き換えに、何でも望みが叶う…と言う言い伝えです。
でも、あまりに昔すぎて、猫には、それが何処に行けばいいのか、誰に願えばいいのかすら解りません。
そこで猫は、毎晩星空に向かって祈り始めました。
「何でも差し出します。どうか、どうか女の子の命を救ってください」と。

幾晩も幾晩も、猫は祈り続けました。
食べる事も、寝る事もせずに…
そんなある夜…
猫の心に不思議な声が響いてきました。
どこから聞こえるのか解りません。
誰が話しかけてきたのかも解りません。
その声は言いました。
「お前の一番大切なものを捧げなさい」
猫は考えました。
何が一番大切なのだろう…と。
そして、「そうだ!この自慢の尻尾を捧げよう!」と思いつきます。
すると…激しい痛みが襲い、まるで火で焼かれたような熱さを感じたあと…

猫の自慢だった、あの長い尻尾は綺麗サッパリ根元から無くなっていました。
「これで女の子は助かるんだ!」
猫は女の子の枕元へ急ぎます。
けれど…女の子はやっぱり苦しそうにしたままでした…
「これじゃ、まだダメなんだ!…じゃぁ…何が。。。」
猫は一生懸命に考えます。
「そうだ!女の子に語り掛けられなく、この声を捧げよう!」
今度は喉に焼けた鉛を流し込まれたのような激痛が走りました。

…そして、猫はその声を失ったのです。
それでも、女の子は弱った体を横たえているだけ…
猫は決めました。
もう二度と大好きな女の子を見られなくなる道を選ぼうと。
「お願いします!この目を差し出します。どうかどうか女の子を救って下さい!」
猫の目に鋭い鉄の棒を差し込んだような痛みが襲いました。
そして…猫は光を失ったのです。
声も出なくなりました…
目も見えなくなりました…
それでも猫は、ヨロヨロと女の子の様子を伺います。
女の子の息遣いは、今も苦しそうなままでした…
やっと…猫は理解しました。
女の子を救うには、自分の命を捧げるしかないのだと…
猫は弱った体を起こし、女の子の元へ行きました。
もう大好きだった、あの顔は見えません。
優しく鳴いて励ましてあげる事もできません。
女の子が大好きだった、自慢の尻尾もなくなりました。
それでも、精一杯猫は、その体をすり付け、最後のお別れを言います。

「もう大丈夫だよ。きっと楽になる」
「もう会えなくなるけど、大好きだったよ…本当に大好きだったよ」
「…さよなら…」
猫はよろける足取りで、庭に出て心で叫びました。
「さぁ!この命を捧げます!女の子を救って下さい!」
その時、またあの不思議な声が聞こえてきました。
「お前は、この世で最も苦しいことにも耐え、命も差し出すと言う。よろしい、その願い聞き入れよう」
その声に猫は答えました。
「なぁ~んだ、最も苦しい事とは、これだったのですか。だったら平気ですとも」
「本当に最も苦しくて悲しい事は、別にあります」
「それは…忘れ去られてしまう事…」
「誰も覚えてくれていない事…」
「そうでないなら、平気です!どうぞ命を召して下さい」
こうして猫は、何百年、何千年の命を終えました。
あんなに痛かったのに、あんなに苦しかったのに…
最期の時、猫は優しい笑みを浮かべたままいきました。
その瞬間、街中の、国中の、いえ世界中の猫達が空に向かって鳴き声を揚げました。

「うゎぁ~~おぉ~~ん!」
「おゎぁ~~おぉ~~!」
夜が明けました。
朝日の中で、女の子はぱっちりと目を開けます。
…どこも痛くありません!
…どこも苦しくありません!

なのに…女の子は泣いていました…
涙が溢れて止まりませんでした…
女の子には解ったのです。
猫が自分の為に何をしてくれたのか…
驚きつつも喜ぶパパとママに話します。
猫がどうなったのかを。。。
泣きながら話す女の子の美しい金髪に一房のオレンジ色の巻き毛が見えます。
それは…あの猫の瞳と同じ色。
「忘れないから!」

「絶対に絶対に忘れないから!」
あれから、また長い長い時間が過ぎて行きました。
あの時の女の子は、もう居ません。
でも、不思議な不思議な言い伝えが、あの女の子の家には残りました。
誰も、もう詳しい事など覚えていないほど古い古い言い伝えです。
流れ星を見つけたら「有難う!忘れてないよ!」
と、必ず言う事。
意味は解らなくても、ずっとずっと守られてきた言い伝えでした。
そして、もう一つ。
あの女の子の家系では、必ず一房のオレンジ色の巻き毛を持つ女の子が生まれ続けたのです。
そう…あの猫の瞳と同じ色。
誰も知らない不思議な話…
流れ星に百万回祈れば、「本当に大切なものが帰ってくる」
誰も知らないのに、皆が祈りました。

「有難う!忘れてないよ!」
今日はクリスマスイブ。
ささやかなツリーの下には、可愛いプレゼントも見えます。
そして、窓辺に座っていた少女が流れ星を見つけました。
少女は慌てて祈ります。
一生懸命祈ります。

「有難う!忘れてないよ!」
首を垂れて、懸命に祈る少女の右の耳の所には…あのオレンジ色の巻き毛が…
温かい部屋の中から、優しいママの声がしました。
「寒くなったわね…そろそろお食事にしましょう」
巻き毛の少女は答えます。
「もう少しだけ待って、ママ。何だかね、とっても良い事が起こりそうな気がするの」
イブの奇跡…
それは、「今日」が、百万回目だった祈り…
本当に大切なものが帰ってきます。
輝くオレンジ色の瞳を持ち、優しい声で鳴く…
そして、やっぱり自慢の尻尾をゆらゆらと揺らしながら…

それは、ほら…もうすぐ…
その木の下に……

親愛なるシャシャシャ家のお子様達へ
そして星になった全ての尊い小さな命達へ・・・祈りを込めて


いつも応援有難うございます♪
その猫が、どこからともなくやって来ました。

長い尻尾をピ~ンと立て、時にはゆらゆらと優雅に揺らしながら
猫は人々の間を歩きます。
不思議なことに、その猫が歩くと、その回りに居た人はみんな何だか安心した顔になりました。
「大丈夫だよ。あっちの人は怖くない人」
「心配しないで。あっちの人も仲良くしたいって」
猫は語りかけます。
直接、人の心の中に…
そう、この不思議な猫は人の心が解る、人の心を伝えられる、世界でたった一匹の猫だったのです。
人々は、その猫によって隣の人、そのまた隣の人と仲良くなっていきました。
そして、それを運んでくれた猫を、それはそれは大切に大切に暮らし始めたのです。

やがて時が過ぎ…
人々は、猫を介さなくてもいい、同じ言葉を使い始めます。
人は、他の人と言葉で話し、どんどん沢山の人が集まりだしました。
人は考え出します…「あの猫は、俺達の心を読む」「きっと今俺が思った悪い事も読まれてる」
そんな風に考える人達によって,猫は追い立てられるようになってしまいました。
何にも悪い事なんかしていないのに…
誰の悪口も言ってはいないのに…

「あの猫は気持ちが悪い!」
「あの猫は悪魔だ!」
あんなに仲良く暮らしていたのに。
あんなに優しく暮らしていたのに。
猫は石を投げられ、水をかけられ、その場所を追われてしまいました。

それから…長い長い年月が過ぎました…
猫は今はもう、人の心に語りかけるのをやめています。
それをすると、人は最初驚き、次に喜び…でも結局最後には利用しようとしたり、怖がったり、気味が悪いと言うのです。
何人もの人に出会いました…
今度こそは…と思いました。
でも…猫が心から安心できる場所は、何処にも無かったのです。
そんなある日、今にも雪がチラチラと舞ってきそうな寒い夜…
猫は、その日の寝場所を求めて、町外れの大きな木の根元に丸まっていました。
そこに通りかかったのは、若い二人。
二人のうちの女の人が、猫に声をかけます。
「猫ちゃん、こんな寒い所では眠れないでしょ?」
もう一人の男の人も声を掛けます。
「何もないけど、ここよりは少し温かいよ。家へこないか?」

猫は二人を見上げながら思いました。
「どうせ、この人達も同じさ」
「でも、こう寒くっちゃ流石に辛い」
「今夜は、家で寝させてもらおう」
そうして猫は、この若い二人の後をトコトコと歩きついて行ったのです。
猫と二人が帰りついた場所は、こじんまりとした小さな家。
決して裕福ではない…でも、どこか温かい、そんなお家。
湯気の立つ、ホカホカスープ。
きっと自分達の分を分けてくれたのであろう、ほぐしたお魚。
猫は、自分の為に用意された暖炉の前で、そんな温かい…本当に久しぶりの食事を食べました。
「。。。悪くないな。。。」
暖炉の火で温まった体を「うぅ~~ん」と伸ばして、猫はそのままぐっすりと眠ったのでした。

その日から、猫はその家で暮らし始めます。
最初のうちは、警戒していた猫も、二人のいつも変わらない優しい笑顔に、徐々に心を開いていきました。
春が来て…夏が訪れて…
秋の枯葉がカサコソと音を立てる季節になりました。
やがて、また冷たい冬がやってくる頃…
長い間待ちわびていた、赤ちゃんがその家に誕生しました。
もう、二人は大喜び!
生まれて来たのは、女の人と同じ、輝くような金色の髪をした可愛い可愛い女の子。
若い二人はパパとママになったのです。
パパとママは、猫に赤ちゃんを見せながら言いました。

「新しい家族が増えたの。猫さん、どうぞこの子をよろしくね」と。
猫は、本当は心配していたのです。
赤ちゃんが生まれたら、自分は居場所がなくなるのではないかと…
また、あの辛い苦しい一人っきりの旅に出なければいけないのかと…
何百年かぶりに、猫は人の心を読んでみました。
そうしないではいられないほど不安だったのです。
そうすると…
なんと、パパとママからはお日様の光のような温かい思いが流れ込んできたのです。
本当に、猫を愛してくれ、一緒に居たいと願ってくれている気持ち。。。
「うみゃぁ~~ん♪」
猫は心から嬉しい声で鳴きました。
自慢の尻尾をピ~ンと立てて、女の子の眠るベッドの回りをクルクルと歩き…

やがて、スヤスヤと寝息を立てる女の子の横にくるりと丸まりました。
それはまるで…「この子は守るよ」と言っているかのように。
それからと言うもの、猫は常に女の子の側を離れませんでした。

女の子が泣き出せば、その柔らかい体を擦り付けて「大丈夫だよ」とあやし…

その自慢の尻尾を揺らして、女の子を遊ばせました。

食べる時も、寝るときも、遊んでいる時だって、猫は何時も何時も一緒です。
そんな女の子と猫の姿を、パパとママは本当に幸せそうに見ています。
ずっとずっと、こんな日が続けばいいのに…と。
何度目かの冬が来た頃、街には恐ろしい病気が流行り出しました。
何人もの人が、病気に負けて死んでいきました…
猫は何時もにも増して、女の子の側から離れません。
どうしてもどうしても女の子を守りたかったのです。
それなのに…
とうとう恐ろしい病魔は、女の子の家にもやってきてしまったのです。
しかも。。。。それは猫が何よりも大切に思う、あの女の子に…

パパもママも、付きっ切りで看病しました。
勿論、猫だって一時も側を離れたりはしません。
でも…
女の子は、どんどん弱っていくのです…
ご飯も食べられなくなりました。
お水さえ喉を通らなくなりました。
それでも、猫が心配そうに「んにゃぁ…」と鳴くと、すっかり細くなってしまった可愛い手で、女の子は猫を撫でるのです。
パパとママは毎晩毎晩祈っていました。
その祈りは、猫が心を読むまでもなく、伝わってくるほど強く、悲しく、切ない祈りなのです。
「代われるのなら、代わりたい!」
その時です。
猫はずっとずっと昔に聞いた話を思い出しました。
それは…
たった一度だけ、自分の一番大切なものと引き換えに、何でも望みが叶う…と言う言い伝えです。
でも、あまりに昔すぎて、猫には、それが何処に行けばいいのか、誰に願えばいいのかすら解りません。
そこで猫は、毎晩星空に向かって祈り始めました。
「何でも差し出します。どうか、どうか女の子の命を救ってください」と。

幾晩も幾晩も、猫は祈り続けました。
食べる事も、寝る事もせずに…
そんなある夜…
猫の心に不思議な声が響いてきました。
どこから聞こえるのか解りません。
誰が話しかけてきたのかも解りません。
その声は言いました。
「お前の一番大切なものを捧げなさい」
猫は考えました。
何が一番大切なのだろう…と。
そして、「そうだ!この自慢の尻尾を捧げよう!」と思いつきます。
すると…激しい痛みが襲い、まるで火で焼かれたような熱さを感じたあと…

猫の自慢だった、あの長い尻尾は綺麗サッパリ根元から無くなっていました。
「これで女の子は助かるんだ!」
猫は女の子の枕元へ急ぎます。
けれど…女の子はやっぱり苦しそうにしたままでした…
「これじゃ、まだダメなんだ!…じゃぁ…何が。。。」
猫は一生懸命に考えます。
「そうだ!女の子に語り掛けられなく、この声を捧げよう!」
今度は喉に焼けた鉛を流し込まれたのような激痛が走りました。

…そして、猫はその声を失ったのです。
それでも、女の子は弱った体を横たえているだけ…
猫は決めました。
もう二度と大好きな女の子を見られなくなる道を選ぼうと。
「お願いします!この目を差し出します。どうかどうか女の子を救って下さい!」
猫の目に鋭い鉄の棒を差し込んだような痛みが襲いました。
そして…猫は光を失ったのです。
声も出なくなりました…
目も見えなくなりました…
それでも猫は、ヨロヨロと女の子の様子を伺います。
女の子の息遣いは、今も苦しそうなままでした…
やっと…猫は理解しました。
女の子を救うには、自分の命を捧げるしかないのだと…
猫は弱った体を起こし、女の子の元へ行きました。
もう大好きだった、あの顔は見えません。
優しく鳴いて励ましてあげる事もできません。
女の子が大好きだった、自慢の尻尾もなくなりました。
それでも、精一杯猫は、その体をすり付け、最後のお別れを言います。

「もう大丈夫だよ。きっと楽になる」
「もう会えなくなるけど、大好きだったよ…本当に大好きだったよ」
「…さよなら…」
猫はよろける足取りで、庭に出て心で叫びました。
「さぁ!この命を捧げます!女の子を救って下さい!」
その時、またあの不思議な声が聞こえてきました。
「お前は、この世で最も苦しいことにも耐え、命も差し出すと言う。よろしい、その願い聞き入れよう」
その声に猫は答えました。
「なぁ~んだ、最も苦しい事とは、これだったのですか。だったら平気ですとも」
「本当に最も苦しくて悲しい事は、別にあります」
「それは…忘れ去られてしまう事…」
「誰も覚えてくれていない事…」
「そうでないなら、平気です!どうぞ命を召して下さい」
こうして猫は、何百年、何千年の命を終えました。
あんなに痛かったのに、あんなに苦しかったのに…
最期の時、猫は優しい笑みを浮かべたままいきました。
その瞬間、街中の、国中の、いえ世界中の猫達が空に向かって鳴き声を揚げました。

「うゎぁ~~おぉ~~ん!」
「おゎぁ~~おぉ~~!」
夜が明けました。
朝日の中で、女の子はぱっちりと目を開けます。
…どこも痛くありません!
…どこも苦しくありません!

なのに…女の子は泣いていました…
涙が溢れて止まりませんでした…
女の子には解ったのです。
猫が自分の為に何をしてくれたのか…
驚きつつも喜ぶパパとママに話します。
猫がどうなったのかを。。。
泣きながら話す女の子の美しい金髪に一房のオレンジ色の巻き毛が見えます。
それは…あの猫の瞳と同じ色。
「忘れないから!」

「絶対に絶対に忘れないから!」
あれから、また長い長い時間が過ぎて行きました。
あの時の女の子は、もう居ません。
でも、不思議な不思議な言い伝えが、あの女の子の家には残りました。
誰も、もう詳しい事など覚えていないほど古い古い言い伝えです。
流れ星を見つけたら「有難う!忘れてないよ!」
と、必ず言う事。
意味は解らなくても、ずっとずっと守られてきた言い伝えでした。
そして、もう一つ。
あの女の子の家系では、必ず一房のオレンジ色の巻き毛を持つ女の子が生まれ続けたのです。
そう…あの猫の瞳と同じ色。
誰も知らない不思議な話…
流れ星に百万回祈れば、「本当に大切なものが帰ってくる」
誰も知らないのに、皆が祈りました。

「有難う!忘れてないよ!」
今日はクリスマスイブ。
ささやかなツリーの下には、可愛いプレゼントも見えます。
そして、窓辺に座っていた少女が流れ星を見つけました。
少女は慌てて祈ります。
一生懸命祈ります。

「有難う!忘れてないよ!」
首を垂れて、懸命に祈る少女の右の耳の所には…あのオレンジ色の巻き毛が…
温かい部屋の中から、優しいママの声がしました。
「寒くなったわね…そろそろお食事にしましょう」
巻き毛の少女は答えます。
「もう少しだけ待って、ママ。何だかね、とっても良い事が起こりそうな気がするの」
イブの奇跡…
それは、「今日」が、百万回目だった祈り…
本当に大切なものが帰ってきます。
輝くオレンジ色の瞳を持ち、優しい声で鳴く…
そして、やっぱり自慢の尻尾をゆらゆらと揺らしながら…

それは、ほら…もうすぐ…
その木の下に……

親愛なるシャシャシャ家のお子様達へ
そして星になった全ての尊い小さな命達へ・・・祈りを込めて


いつも応援有難うございます♪
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