追悼 白いハイヒール



美しい脚を持つ女性でした。



こじんまりとした家に相応しい、やはりこじんまりとした下駄箱。
いつの頃だったのか……定かではありませんが、その下駄箱の中に印象的な一足が誇らしげに鎮座していた事があります。


真っ白なハイヒール。



ほの暗い下駄箱の中で、そこだけがスポットライトを浴びたように、一際輝きを放っていて、目にした瞬間何故か頬が紅潮するような気持ちがした事を昨日の様に覚えています。



真夏の強烈な白い日差しの中、真っ白なハイヒールを履きこなし、腕にはやはり真っ白なハンドバッグ。
ほっそりした首筋には……あれは…水晶だったのでしょうか……キラキラと光る丸い球。
涼やかなワンピース姿で立つ姿は、その頃の私が思い描く「大人の女性」そのものでした。



いつか私も大人になったら、ああして真っ白なハイヒールが似合う女性になるんだ!



。。。何度かこっそり下駄箱から取り出し、そっと足を入れてみたものです。。。


当たり前にブカブカで、私が履くと滑稽そのもの。
何よりも、足を入れた途端に、前のめりにつんのめりそうになる。
それはまるで…精一杯背伸びをしても届かない……「まだだよ」の世界への扉。






若かりし頃、銀幕の大スターだった「高峰秀子」さんに似た面差しを持つと言われたそうです。
そう言われれば…大変僭越な事ですが、どこか似ていた気も致します。
涼やかな目元と、すっきりした鼻筋を持ち、年を経てもそのほっそりとした姿形は変わる事はありませんでした。


沢山の兄弟姉妹の下っ端として生まれて来たせいで、どこかのほほんと悠長。
なのに少し神経質で、自分の居住スペースの汚れに敏感な掃除魔。
そのくせ、お料理に関しては苦手意識がずっと抜けない。。。


貴女の娘として育った私は、何故かそれとは真逆になってしまいましたね……



晩年、ずっと戦った病ともある程度折り合いをつけていた様にも見受けられました。
結果、その戦いに敗れたとは言え、貴方の戦いは見事と言うほかありません。
日本人女性の平均寿命には僅かに届きませんでしたが、貴女は貴女の人生の主人公として胸を張って誇れる生き様でした。





私は貴女を思う時、未だ素直にはなりきれない不届き者です。
貴女を褒め称えたい一方で、貴女に恨みつらみを吐き出したい願望とも戦うのです。


胸の奥がザラついています…
大きな大きな塊を呑み込めぬまま、息苦しい気も致します……
もうずっと前に「乗り越えた」と思っていた感情が、今になって押し寄せてくるのは何故でしょうね。。。



  母さん…私には……貴女がいつまでも遠い……





淡々と雑事をこなしていると、ふと思います。
私は貴女と、本当の意味で語り合った事などなかったのかもしれないと…


不出来な娘でしかなかった私は、いつまでも貴女に「母」を求めてしまっていましたね。
自分も娘を持つ母になり、その娘にどこか冷静な眼差しで見つめられる事に気まずさを感じながらも、言い訳ばかりしていました。


「だって…だって…」


拒絶される事が怖かった。
貴女の中に、私の場所が無かったとは思わないまでも、そのあまりの少なさに嘆き悲しんでばかりいた気がするのです。
「愛される」対象でないのなら、意地でも「頼られる」対象になろう!と意気込んでいました。
…しかし、それすら満足にできない有様……



もっと一杯話せばよかったね。。。
面倒がらず、どうせ解りあえないと匙を投げず、貴女の心の奥の闇を聞いてあげればよかったね。
私の中に巣くう、真っ黒な闇を泣きわめいてでも伝えればよかったね。



「ありがとう」の言葉より「ごめんね」が口をつきます。



貴女の望むような優しい娘になれなくてごめん…





20年も前に先に逝ってしまった父さんの元へ、今貴女はあの真っ白なハイヒールを履いて美しい姿勢で駆けつけている頃でしょうか…
父さんはきっと、少し照れながらも「相変わらず綺麗だよ」と言ってくれるでしょうね。
ボルサリーノを小粋にちょこんとかぶり、小柄な体を目一杯伸ばし、母さんにお似合いの男を気取って……



母さん…私は結局今も白いハイヒールが似合わぬままです……




ご心配を頂きましたが、無事母のお見送りを済ませる事ができました。
本日は、私の独り言更新です。
こうして言葉にすると、少し心が落ち着きました。
繰り言にお付き合い下さいましてありがとうございました。



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プロフィール

八朔かーさん

Author:八朔かーさん
「女は度胸」のかーさん
「男は優しさ」のとーさん
八朔(♂)と、小夏(♀)の茶トラ兄妹
不思議な縁で結ばれた、離れ離れだった兄妹が再会を果たしました。
二人と二匹…愛しい命達との日々は「猫まみれ」加速中!

八朔

2012.8.8
お散歩中のかーさん達に鳴きながら付いて来た茶トラの男の子八朔。
その日から始まった猫まみれの日々。
保護当時、4か月程だった為、その後半ば強引に、とーさんと同じ誕生日、3月29日生まれと決めました。
優しいとーさんと、ドスコイかーさんに見守られて伸び伸びすくすく成長中。
保護当日の様子はこちらから

小夏
CIMG5150.jpg
2013.3.28
不思議な不思議な「ご縁」に導かれ、我が家の娘になった小夏。
八朔とは離れ離れになっていた実の兄妹です。
沢山の方に愛され見守られてきた、「お社の猫」
度胸の据わった美人さんは、かーさん家で兄の八朔を教育中。
小夏へと続く道はこちらから


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