悪くねぇ。。。
ん?やっと来たな…
今日は少し遅かったんじゃねぇのか?
まぁ…いいさ。。。こうして食べるモノを運んでくるアンタには俺なりに感謝してるぜ。
おっと!それ以上近づくんじゃねぇ!
何時もの様に、そこに食い物を置いたら、とっととその場所から離れな!
言っとくがな…俺は誰も信用なんてしないぜ。
特に「優しそうな顔をした人間」ってヤツはな。
もっとチビだった頃…俺はそう言う優しそうな顔の人間に酷い目に合わされた。。。
優しそうな声で俺を手懐けて、温かい手で俺の体を撫でたそいつは…
よりにもよって俺に毒を食わせたんだぜ!
一口二口食べて異変に気付いた俺は、その場から後ずさりした。。。
そしたら、そいつ泣いてるんだ。
「エサをやっちゃいけないって皆に言われたんだ…お前を何とかしないとここでは暮らせないって言われたんだ!」
何とかってなんだい?
俺を殺す事か!
何でだ…俺はただ…食い物を貰えるからここに居ただけなのに…
優しく撫でてくれるから、俺の事を少しは好きでいてくれると思っただけなのに…
俺は…邪魔なのか…?
居てはいけないの…か…?
込み上げて来る吐き気のせいだ…こんなに涙が出るのは。
毒を食ったせいだ…こんなに胸が痛いのは。
。。。俺は3日3晩苦しみぬいて生き返ったさ。。。
自分のゲロと糞にまみれて、悶えぬいて生き返ったさ。。。
ただし…それまでの俺とはもう違う!
優しくされたって信じるものか!
騙されるもんか!
俺の心はどんどんささくれ立って行ったよ。
だってそうだろ?
何もしていないのに真冬に水をぶっかけられたり、棒を持ったガキに追い回されたりしてみろ!
あれから何年だろうな…
俺は一端の用心深い猫になったさ。
常に周りの気配を伺い…食い物の匂いにだって敏感になった。
2度とごめんだ!毒を食らうのは!
ここの「エサ場」と呼ばれる場所に辿り着いてからだって、もう2年が過ぎた。
その間に、同じようにエサを食っていたヤツ等のメンツも変わって行ったさ。
。。。みんな何処へ行っちまったんだろうな。。。
みゃーみゃー煩かったあのチビ達…
別嬪だった三毛…
俺に喧嘩をふっかけて返り討ちにあった、あの若造…
…元気だといいがな……
元気盛りだった俺も、流石に年をとった…
昔の様に自由に走り回る事もキツクなったしな。
今年の冬は特に寒くて…年期の入った立派な野良の俺でさえ空を見上げて恨み言の一つも言いたくなったぜ。
その上、馬鹿な事に俺はちょっとした怪我までしちまった!
なぁに、これくらいの傷は何時もの様に舐めておけば治るさ!
…と、思っていたのに…何時まで経っても傷口がじくじくしやがる。。。
けっ!これも年を取るって事かい!
今はいい…
今はまだ、こうやって食い物にもありつける。
怪我してたって、足を引き摺ってでも来られるしな。
。。。食えなくなったら。。。終わりだ。。。
解ってるからよ!
だから、毎日食い物を運んでくれるアンタには感謝してるんだぜ。
。。。そんな目で見るな!
俺は騙されん!
心配そうな声で話しかけるな!
俺は物心ついた時からずっと一人だ。
死ぬ時だって一人に決まってる!
おためごかしは要らないんだ。。。。
優しいふりなんぞクソくらえ!
食い物を置いたらとっとと消えろ!
そんな寂しそうな顔するんじゃねぇ!
…次の日…俺は痛みで目覚めた…
くそぉーー!足が…足が動かねぇ!
ジクジクした傷口に蛆が湧いてやがる。。。
俺は…蛆に食われて死ぬのか?
。。。まぁ、それも仕方がないやな。。。
俺はそう生れついちまった猫だ。
…あれからもう一週間か。。
あぁ…体が熱い!頭がボーっとしやがる!
腹が減ったかどうかも…もう解らねぇ…まぁ、これは助かるがな…
これで終わりか…
こんな風に終わっちまうのか…
と…その時。。。
いつも食い物を運んで来るオバサンの声が聞こえた…
ん?俺を探しているのか?
何で泣き声なんだ?
。。。俺を……心配してるのか…?
どうするんだ…俺。
どうすればいいんだ…俺は!
このままここで蛆にまみれて死んでいくのか…
ここで声をあげて、あのオバサンを呼ぶのか…
人間なんて信じねぇ!
人間なんてどいつもこいつも自分勝手で残酷で酷いヤツばかりだ!
でも…でも…
このオバサンは…2年もの間俺に何一つ嫌な事はしなかった…よな…
俺が毎日渾身の威嚇をしてやっても、ひるまず笑ってたな…
俺は…俺は……まだ死にたくはねぇ!!
「んにゃぉ~~!」
とんだ目にあったぜ。。。
あれから俺は「病院」とやらに運ばれて、何だかすげぇ痛い事をされて…
首にはでっかい襟巻をつけられるし、毎日毎日美味くもねぇものを飲まされるし…
あのオバサンは、毎日俺に会いに来た。
俺が動けないのを良い事に、俺の体を存分に撫でまわしやがった!
…動けないんだから仕方がない…よな…
そして…今…俺は…
あのオバサンの家で、他のヤツ等3匹と一緒に暮らしている。。。
最初、この俺様に向かって、偉そうに「フシャーーーッ!」と威嚇しやがった3匹も、俺の威嚇返しにビビったようで、すっかり大人しいもんよ。
生え抜きの野良を舐めんじゃねぇ。
こいつ等がまたちとウザい!
気が付くと俺の横で寝ていたり、頼みもしないのに毛繕いまでしやがったり…
まぁ、ここは俺が折れてやるさ。
どうやら、ここでの俺の名は「ボス」になったらしい。
。。。うん。。。悪くねぇ。
甘ったれた名前だったら、とことん拒否してやろうと思ってたんだがな!
それとな…
俺はオバサンにだけは、俺を撫でる事を許してやったぜ。
他の男や子供には決して許さねぇけどな!
コイツは…信じても…いいかもしれねぇと…俺は思い始めている。
俺は確かに聞いた。
蛆まみれの俺を見つけた時、躊躇なく俺を抱き上げて、蛆を振り払いながら
「ダメよ!死なせない!アンタはうちの子になるんだから!」
って…泣きながら叫んでた言葉。。。
病院とやらで、薄れゆく意識の中でも確かに聞いた。
「お願いです!この子を助けて下さい!」
と、何度も何度も繰り返していた言葉。。。
もう一度だけ…もう一度だけ…
俺は人間ってヤツを信じてもいいかもしれんと…そう思えた…
「ボスはね…とっても遠回りして来たけど、もうずっとうちの子だからね…」
…俺は今、その言葉を温かい膝の上で聞いてるよ…
らしくもなく喉の奥が鳴り始めてるが…
まぁ、いいよな?
。。。ここは…悪くねぇ。。。うん、全く悪くねぇ。。。
本日は「かーさんの好き勝手デー」として、フィクションの物語を綴ってみました。
どこかで…こんな風に物語が始まるといいな…そんな思いで書かせて頂きました。
長々とお付き合いを有難うございましたm(__)m
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